パリオリンピックが終わって、もう10日以上経ってしまったのか。
喪失感が半端ない。
ひきこもりとしてもゲイとしても珍しいと思うけど、私はスポーツ観戦が大好き。
数ある競技のなかでも、何十年も応援している競技がある。
かつては日本のお家芸とまで言われたが、私がその競技を見始めたときにはすでに低迷期に入っていて、特に男子はメダルはおろかオリンピックに出ることすらできない時期が続いた。
それがなんと、ここ十年くらいで強豪と言われるまでの復活を遂げ、今大会では優勝候補の一角に挙げられるほどになっていた。
期待はいやが上にも高まって迎えたオリンピックだったが、残念ながら今回もメダル獲得には至らなかった。
敗退が決まったときには悔しくて悲しくて、本当に辛かった。
だけど、選手やスタッフが一番メダルが欲しかったはずだし、勝っても負けてもこれほど私の心を熱く揺さぶるものはないので、そういう意味ではスポーツが好きでよかったと思うし、生きがいであることを再認識できた期間だった。
常に死にたいと思っているのに、生きがいというのは変だろうか。
たしかに毎日死にたいという気持ちはある。
だけど、死ぬのはそう簡単じゃない。
なら、生きている間は好きなものに没頭する時間も必要。
嫌いなもの、辛いことばかりじゃそれこそ生きていけない。
おや、パラドックス?
もちろんパラリンピックも楽しみな競技がたくさんあるので、合間のこの時期に頑張って記事を一つ上げておこうと思う。
ブラック
1994~95年 平成6~7年 21~22歳
さて、前回アルバイト最古参の土屋さんが退職したことを書いたが、しばらくして新しいアルバイトが採用された。
小柄な感じの男性で、たしか33歳くらいだったと思う。
この人の記憶は一つの出来事を除いておぼろげ。
名前も顔も覚えていない。
なぜなら短期間で辞めていったから。
本当にうろ覚えだけど、一回目の給料が出てまもなくだったと思う。
実は彼が入職してすぐくらいに地域の最低賃金が引き上げられたのだが、うちの会社はそれを無視して違反状態となった時給で私たちアルバイトを働かせていたのである。
そう、当ブログを読んでいただいている方々は薄々気づいていたと思うけど、今で言うところのブラック企業だ。
最低賃金が上がったことを知っていて無視していたのか、そもそも知らなかったのか、どちらにしてもブラックであることには変わりない。
たしか私とバイトの先輩である草野さんの間でも、その話は出ていた。
草野さんは時給が上がらないことについてかなり不満なようだったけど、結局店長など会社側に言い出す勇気が持てず。
私はと言えば、草野さんには悪いがぶっちゃけあまり興味がなく、安い給料であろうとひきこもりを脱出して就労できていることに満足していた。
で、新アルバイトの彼。
彼はどうにも我慢ならなかったようで。
愛想をつかして早々に出て行った。
ところが新アルバイト氏の怒りは職場を去ることでは収まらなかったようで。
彼が辞めて少し経ったころ、いきなり店長から時給が20円上がる旨が私と草野さんに伝えられた。
話によると、誰かが最低賃金違反のことを労働基準監督署に密告したらしい。。
まあ、そうなると彼なのだろうな、と。
なんと言うのか。
この件に関して言えば、明らかに法律違反なので分かりやすいけれど。
きっとこの会社はこういうおかしなことを繰り返してきたのだろう。
だからアルバイトも定着せず。
永遠に求人広告を出す羽目に・・。
結局私と草野さんは、自分から会社側に訴えるというストレスのかかる行動もしないまま、時給が580円に上がった。
辞めていった彼は自分にはもう恩恵がないのに、正義感や義憤から労基に訴えたのである。
一緒に働いたのは短い期間だったから、まだ我々にそこまでの情が芽生えていたとも思えない。
その後、ユニフォームを返却するためか何かで一度来てくれたので、そのときに感謝を伝えることができたと記憶しているが。
でもそんなことを思い出しながら、正義ってなんなのだろうと思う。
誰もが正義が勝つべきだと思っている。
だけど、今回の新アルバイト氏がその道を選んだように、正義は得てして自己犠牲を伴ったり、報われなかったり、時として損をすることさえある。
しかも厄介なことに、正義は人によって違う。
答えは一つじゃない。
甚だ残念な現実だけど、自分だけの正義や公平に執着するよりも面従腹背を自己消化できるスキルを身につけた方が、この世は楽に渡れるのだろうし、それが大人になるということなのかもしれない。
ここまで書いておいて、私にはそのスキルが欠片もないのだけど。
子供のころに誰かが教えてくれればよかったのに。
初恋
その後、新しいアルバイトは誰も入って来なくなった。
しかしそれは、私にとってそこまで悪いものではなかった。
人員不足は一人ひとりの責任や業務量も増えるけど、反面、きちんと出勤し仕事をこなせば周りからの信頼度は上がる。
同僚のスタッフたちともある程度打ち解け、軽口をたたけるくらいにはなったし、とりわけ店長との距離が近くなってきていることも実感していた。
客が少なくて業務もないときなど、売り場にいる私のそばに店長の方からやって来て無駄話に花を咲かせたり。
相変わらず彼がトイレの個室に籠って寝ているときに何かあったら起こすよう頼まれたり。
私が自転車で出勤できなかった日に車で家まで送ってくれたり。
そのすべての時間が楽しく感じられ。
いつしか夜にベッドに入って寝る前など、店長のことばかり考えている自分に気付くのであった。
肉付きの良いがっしりとした体格。
頼りがいのある男らしさ。
明るく前向きな雰囲気。
また、ときに店長は自らの女性関係や下ネタなどを冗談めかして話すこともあり、私の隠した情欲や想像を煽る存在となっていた。
正直な話、顔はあまりタイプではなかったけど。。
そう、端的に言うと、私は店長に恋心を抱き始めていたのである。
そんなある朝、事務所で店長と二人きりになったときのこと。
私は意を決して、ある性に関する体の悩みを店長に打ち明けた。
悩みと言っても深刻なものではなく、その日の出勤前に起きたエピソードを軽く話しただけだが、私にとってはとても勇気の要ることだった。
なぜなら、下ネタはいつも店長からふざけ半分に披露されるだけで、私が自らの性に関する内面、あるいは外面を晒すことはなかったからだ。
私はもっと店長と親しくなりたかった。
もう一歩踏み込みたかった。
そのためには男同士という意味で、自分の恥ずかしい部分を暴露すること、笑われてバカにされるような下ネタを共有することが有効に思えた。
そしてこの試みは、予想外の結果をもたらした。
詳しくは書かないが、店長は私の欲情を直接的に刺激する形の反応を見せたのである。
彼はもちろんゲイではないし、私がゲイであることも知らない。
だからこそ友人のような親しさで、兄のような気楽さで彼は私にあるリアクションを示したのだろう。
いや、店長の性格なら私がゲイであることを知っていても、分け隔てなく接してくれたかもしれないが。
とにかく、この出来事は決定的だった。
過去に「ゲイの発端」として記事にしたときに登場いただいた人たち、あるいはその以外でも身近に気になる男性は幾人かいた。
しかし、思い焦がれる気持ちと性欲とが一人の男性に向いたのは初めてだった。
これが私の初恋だった。
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