ひきこもり脱出(その18)

2024年11月15日金曜日

アラフィフ ゲイ ひきこもり ひきこもり脱出 体験談

最近ふと、当時の職場の内情やエピソードを書いていて思う。


もしかしたらこのブログを当時の同僚が目にするかもしれないと。

そして自分たちのことが書かれていると気付くかもしれないと。


でも結局、その可能性はとても低いだろうという結論に落ち着く。


もう30年も前のことだし、地名も社名も同僚の本名も出していない。


一年も在籍しなかったアルバイトのことなど誰も憶えていないだろう。

それにあの会社なら履歴書なども残っていない気がする。


なにより一緒に働いていた人たちは皆もう辞めてしまったかもしれない。


もちろん誰とも連絡などとっていない。

いつも私は人や物を切り捨ててきた。


思い出がいつまでも悲しく残るだけである。


一方通行


1994~95年 平成6~7年 21~22歳


日に日に金山店長(仮名)への想いは募っていた。


同時に、その想いが形になることは永遠にないことも解っていた。


ゲイはいくら誰かを好きになっても、相手が同じゲイという確信がなければ、想いを相手に打ち明けることもできない。


絶対に叶うことのない一方通行の恋。


これが異性愛者同士のように告白してフラれるなら、まだ気持ちの整理はつくかもしれない。


しかし相手が異性愛者である以上、男が男に告白して成就するわけがない。

逆に気持ち悪がられてしまうかもしれない。


そうでなくてもそれまでの関係が変わってしまうだろう。

職場にいられなくなる可能性も高い。


何も良いことがない。


異性愛者同士であっても、告白する勇気が出ずに片思いのまま終わってしまう恋もあるけど、そのチャンスすらないのだからまるで意味が違う。


当たって砕けることさえできず、自分の心を封じ込めるしかないのだ。


しかし封じ込めるといっても、毎日のように一緒に働いている相手への気持ちを消すことなど簡単にできるはずもなく。


気持ちは膨らむ一方で。


好きで好きでたまらないのに、どうすることもできない。


嬉しくて楽しかったはずの店長の存在すべては、いつしか私にとってもどかしさと苦しさに変わっていった。


誰かを好きになること。

人として当たり前の感情。


それがこんなにも辛く苦しいものと知ったのである。


臨時ニュース


そんな折、とんでもないニュースが飛び込んできた。


正社員の藤田(仮名)さんが、本社の金庫を丸ごと持ち出し失踪したというのである。

しかも軽トラだかなんだか、会社の車両で。


で、パワハラ部長が必死に追いかけていると。


まるで現実感がなかった。

安っぽい物語の中でしか起きないような事件。


追いかけているって言っても・・。

目の前で犯行に及んで、カーチェイスになったわけじゃないだろうに。


どうやらその時点では警察沙汰にはしていないみたいだったし、今と違ってGPSとかもない時代にどうやって足取りを特定するのか。。


それにしても、よりによって藤田さんとは。


「なぜ?」だけが頭を駆け巡る。


藤田さん。

27歳くらいで、ちょこまか動く感じの人。


基本的には本社勤務なのであまり現場には登場しないけど、普通の人だし優しいし、そんな度胸があるとはとてもじゃないけど信じられない。


それに。


もしも部長に見つけられ捕まった場合は・・。

考えるだけで恐ろしいが・・。



果たしてそれが現実のものとなったのは翌日のことだった。


本社や我々の職場のある場所から200㎞以上も離れた場所で藤田さんは発見された。


こう書くと死んだみたいだけど、実際は田んぼかどこかに車両ごと落ちたとかで動けなくなっただけらしい。


できるだけ遠くまで逃げるために街灯の少ない道を夜通し走ったのだろうか。。


藤田さんの身一つだけで逃げることもできたとは思う。

でも事故車両を放置することはできなかったのだろう。


藤田さんが自ら助けを求めたのか、周りの人が通報したのかは聞かなかった。

ただ、最初に駆けつけた会社関係者は、やはり部長だったらしい。。


事故現場では人目があっただろうから、おそらくあとで部長と二人きりになったときに・・。


恐ろしい。。。



この事件を機に、藤田さんは会社を去った。

当たり前だけど。


単純に金が目的だったと聞いたけど、本当にそうだったのだろうか。


持ち逃げという犯罪が成功するとでも?

金庫にどれだけの金額が保管されていたのかは知らないけど、それほどのリスクを負ってまで決行しなきゃいけなかったのか?


それとも。

何か不満が爆発したものだったのだろうか。。


最終的に警察に被害届を出したかどうかは知らない。

いずれにしても、藤田さんの人生は大きく変わってしまったことだろう。


正社員でちゃんと働いているように見えてもこういう人はいる。

社会に出ると様々なことが起きるものだ・・。


潮時


これでまた従業員が一人減ったわけだけど、業務的な意味で我々の現場にはあまり影響はなかった。


ただ、小さい子供が3人いる正社員の林原(仮名)さんは、私と二人だけのときにこんなことを言っていた。


「俺もそろそろ潮時かなぁ・・。いつまでもいるような会社じゃないもんね」


そうなのか・・。

正社員でさえそう思っているのか・・。


当時の日本社会は終身雇用が当たり前で。

高校や大学を卒業して正社員として就職したら、そのまま定年まで一つの会社で働き続けるのが普通。


そのレールから一度でも外れると、問題があるとみなされる国だった。


でもよく考えたら、このときの会社はほとんどみんな転職組とアルバイト。


別にだからと言って、そこに希望を見出したとか、レールから外れてもやり直せる勇気をもらったとか、そういうのでは全然ないけど。


私自身、きっといつかはこの職場を去る日が来るのだろうと再認識したというか。


ひきこもりからようやく脱出した最初の仕事。

だから、ひとまずホッと一息ついてしまっていて。


いつまで続けるとか。

いつかは正社員になるとか。


そんなことよりもまず目の前の毎日を継続することに精一杯で。


だけどやはり頭のどこか片隅には、永遠にこのままでいいわけじゃないという想いもあって。


業務にも同僚にも慣れてきた今。

いろいろなことが見え始め、分かり始めた今。


暴力を伴うパワハラ。

辛く苦しいだけの片思い。

まるで作り話のような持ち逃げ。


一緒に働いていた人たちが、一人また一人といなくなる。


そもそもアルバイトだし、この会社に安住しようなどとは微塵も思っていなかったけど。


何を達成したら辞めるのか。

辞めて正社員の道を目指すのか。


まだその心構えなど欠片もできておらず。


将来から目を背けている自分に嘆息するばかりだった。