ひきこもり脱出(その15)

2024年3月21日木曜日

アラフィフ ゲイ ひきこもり ひきこもり脱出 体験談

1994~95年 平成6~7年 21~22歳


さて、2年半もの間、ひきこもりで怠惰な生活を送ってきた私。


いきなり一日中立ちっぱなしの仕事に就いて体が持つのか不安だったけど、実際、働き出して少しの間は脚と腰に痛みがあった。


特に腰は業務中もかなりキツいことがあったので、客からなるべく見えない場所で屈伸をしたり、トイレの個室で2~3分休憩するようにしてなんとかやり過ごしていた。


それでも慣れというのはすごいもので、日を追うごとに問題なく動けるようになっていったのである。


ただ一つ、解決できない慢性の身体的問題があった。


それは朝起きてベッドから降りるときにビリリと走る足裏の痛み。

最近知ったのだが、足底腱膜炎という症状らしい。


クッション性のない革靴を履いての業務が原因なのだろう。


幸い私の場合は起床して活動し始めると痛みはすぐに治まっていたので、病院などにはかからずに済んだけど、これはこの仕事を辞めるまで続いた。



そんなこんなで最初のうちはいかにも世間知らずで場違いな感じの私だったが、数ヶ月も経つころには「鍵」も持つことが許され、アルバイトができる範疇の業務はほとんどこなせるようになった。


そしてそれは同時に、心からではないにしろ同僚と打ち解けることにも繋がっていったのである。


近所


たまに、若い女性がうちの店長と立ち話をしていたりした。


自分のチープな似非ディーラースタイルの制服が恥ずかしく思えるほど、小綺麗な洋服に身を包んだ彼女の姿。


おそらく「近所の」アパレル系の店員だったかと思うけど、私などからすると最も接するのが苦手なタイプの人だった。


しかしそう考えると、職場であるゲームコーナーの「近所」にはどういうテナントがあっただろうという疑問が湧く。


興味がなさ過ぎて憶えていない。


興味がないことに加えて、あまり人と関わりたくないというのもあったのだと思う。

別に一緒に働くスタッフ以外と仲良くなりたいとも思っていなかった。



一つだけはっきり憶えている店がある。

老夫婦ともう一人のオバちゃんで切り盛りする喫茶レストラン。


うちの店長がよくランチを取る店で、私も通うようになった。


私はカレーライスが大好きなのだが、そこのは美味しいし飽きない味だったので頻繁に食べていた。



一度、こんなことがあった。


うちのゲームコーナーで遊んでいた女性客の具合が悪くなり、店長の指示を受けた私はその喫茶レストランに水をもらいに走った。


戸惑う老夫婦に拙いながらもなんとか事情を説明し、水を満たしたコップを受け取りゲームコーナーに急いで戻る。


水を一口飲んだ客は、駆け付けたショッピングセンターのスタッフに付き添われ、医務室かどこかへ連れられていった。


ゲームコーナーは音や光がすごく強かったし、ゲーム機からの発熱もすごかったのでそれが原因かもしれない。


もちろん通常業務にはないイレギュラーなこと。


でも、働くということはこんなことも含まれるのだと。

社会の一員であるということは、そういう事態にも対処しなければならないのだと。


たかがコップ一杯の水をもらいに行っただけと言うなかれ。

ひきこもりで人見知りの私にはすごく勇気の要ることなのである。


私は店長のように社交的じゃないし、よく行くようになっていたとは言え、喫茶レストランの老夫婦と親しいわけではなかった。


でも、「その老夫婦と顔見知り」、「会話をしたことがある」、そして「老夫婦も私がゲームコーナーのスタッフであることを知っている」という足掛かりがあったから、なんとか遂行できたのだと思う。


ちなみにコップの返却は店長がお礼を兼ねて行ってくれた。

私と一歳しか年齢が変わらないのに、さすが店長はちゃんとしている。



それにしても、その店に行くようになるまで昼食はどうしていたのだろう?


芋づる式に疑問が浮かぶ。


出勤時にコンビニなどで何かを買って行った記憶はないし、祖母の手弁当を持参した記憶もない。


そう言えば、社員食堂を利用していたような気がしないでもない。


当時、そのショッピングセンターの系列に有名な外食チェーンがあり、同じ名前の社員食堂があったはずなのである。


逆にその外食チェーンには、プライベートでは行ったことがない。

だから名前を憶えているということは、やはり社員食堂を利用したことがあるのだろう。



あと、ショッピングセンターの直接雇用なのか外部委託なのか分からないけど、私服警備員がいたことも思い出した。


今で言う万引きGメンみたいなものだと思うが、いつも男性2人+女性1人の3人組で現れる。


私が彼らに気付くときはテレビで見る万引きGメンのように隠密裏の監視ではなく、すでに誰かを追っている感じで、屈んで物陰に隠れたりしていたので私服でもすぐに警備員と分かる。


そして何やら合図を取り合いながら、フロアを俊敏に移動していくのである。


実際に派手な捕り物劇の現場を見たことはなかったけど、彼らがフロアに現れると少しテンションが上がったものだった。



・・いろんなことがあったんだな。

こうして記事にすることで当時の記憶が蘇ってくる。


まさに社会に出て様々なことを経験することが次に繋がって、善かれ悪しかれ今の私に至っているのだ。


変化


働き始めてどのくらい経ったころだったか、アルバイトで一番のベテラン土屋さんが退職した。


理由は覚えていない。


どこかの正社員になるとか、そんな感じだった気がする。

もしかしたら、私が入職する前から予定されていたのかもしれない。


彼が辞めたことにより、いろいろと変化が起きた。


また、それと前後して私の仕事に対する意識が変わり始めた。

暇を持て余しているくらいなら、業務は自分で探すべきだと。



こういった仕事に対する意欲の変化というものは、土屋さんの退職と相まって、結果的に私と店長の関係にまで波及していくことになったのである。