母の死(その4)

2021年8月28日土曜日

アラフィフ ひきこもり 体験談

この記事の主な登場人物は、叔父(母の弟)です。








火葬の朝


2021年 令和3年 49歳 (現在)


8月6日、金曜日の朝、私は叔父に連絡をした。

母の火葬が執り行われる日。


一人息子である私は出席すらしない。

現地の叔父が代わりにやってくれる。


だから、形だけでも感謝を伝えておかなければならない。

ショートメールだったが。


「了解~」


ほどなくして返信が来た。

叔父のメールの返事はいつもこの単語のみ。

この一言で回答できない場合は、電話してくる。


フットワーク軽く動いてくれてはいるが、やはり70歳を超えた高齢者。

小さい画面でのメールは苦手なのかもしれない。


とにかく私は、私の代行をしてくれる叔父に感謝した。


脳内シミュレーション


もしも私が喪主や火葬を行うとしたらどうなっていただろう。

話の成り行き次第では、そうなっていた可能性もあるわけで。


私はこの日を迎えるまでに、何度か脳内シミュレーションを行っていた。



まず第一に、私は喪服や礼服の類を持っていない。

誰の弔事にも出たことがないのだから。


そうなると、選択肢は三つ。


一つは、購入する。

二つ目は、貸衣装屋で借りる。

そして三つ目は、いま持っている普通のスーツで出席する。


もし喪服や礼服を購入するとなると、当然借りるよりも金がかかる。

私は今後も、他人の弔事には出席する気はない。


そもそも、そこまで付き合いのある知り合いもいない。


だとしたら、購入するのはもったいない。


いや、でもパートナーがいる。

彼も私同様、親類とはほとんど没交渉の状態。

年齢も離れているし、普通にいけば私が看取ることになる。


なのでそのときは、さすがに私がやらなければならない。


ただ今回買ってしまった場合、飛行機に持ち込めるのか?

それは持っているスーツも同じだけど。


私はスーツを着るのが嫌いだ。

着用していると、体が縛り付けられている感じがする。


今までの人生でも、仕事で着たことはほとんどない。

大学の入学式や面接の他、数えるほどである。


だから、着たまま電車を乗り継いで、飛行機に搭乗するのは避けたい。


ということは、機内に持ち込めるのか調べる必要がある。

それとも預けるのか?

預けられるのか?


やっぱり現地に着いてから貸衣装で借りるのがいい気がする。

でも、どこに貸衣装屋があるのか、やっぱり調べないとならない。


いや、それ以前に、飛行機のチケットの予約はどうなる?

日程には余裕がないから、すぐに手配する必要があるぞ。


飛行機はこれまでに、国内線に6回しか乗ったことがない。

往復で3回。


それも一ヶ月以上前から予定を組んで。

ネットから予約して、席を決めて、二次元バーコードをスマホに落として。

念のため、行程もすべて印刷して。


それを、たった数日で?

向こうではどこに宿泊する?


母宅も叔父宅も無理だろう。

ホテルだとやっぱり予約が必要だ。

いや、一年前に泊めてもらった父宅が無難か。


はぁ・・・。



脳内シミュレーションはいつもここらで終わる。

それ以上は、脳が考えるのを拒否するのである。


手には汗がじっとりと浮かび。

心なしか、心拍数も上がっている気がする。


火葬だけでさえ、こうだ。

これが喪主なら、挨拶やら何やらあるのだろう。


そもそも喪主が何をするのか知らない。

それが故の恐怖もあるわけで。


本当に叔父がいてくれてよかった。

心からそう思う。


火葬の夕


夕方近くになって、叔父から電話が入った。

火葬から納骨まで滞りなく終わったと。


この報告に、私は心底安堵した。

もちろん、このあとも面倒な相続関連の手続きがあるはず。


ただ、ここさえ乗り切ればなんとかなる。

それくらい母の弔事は、私にとって負担となるものだったのだ。



母の遺骨は、先祖代々の墓に納めたとのこと。

墓石に母の名前を入れてもらう手配もしたそうだ。


幼いころ、毎年みんなで行った霊園。

広い敷地の奥の方だったことを覚えている。

帰りには、近くのレストランで食事をした。


いつか、私も再び墓参りすることがあるのだろうか。



まだ続く。