ひきこもり脱出(その10)

2023年6月19日月曜日

アラフィフ ゲイ ひきこもり ひきこもり脱出 体験談

このシリーズも、もう10個目の記事。


ひきこもり脱出のシリーズなので。

前向きな話であることは間違いないんだけど。


投稿を重ねれば重ねるほど。


結局ずっと私の人生は孤独なのだと。

そんなことも再認識している。


誰かに頼ったり。

誰かに相談したり。

誰かに泣きついたり。


自分の弱さを曝け出す。

若いときに私にそれができていたらなぁ・・。


出発


1994年 平成6年 21歳


ついにこの日が来てしまった。

人生初の仕事の面接。


だが、意外にも心は落ち着いていた。

正直、応募の電話をかける方がしんどかった。


電話はいつでも自由にかけられる。

自由であるがゆえに難しい。


それに引き換え、面接当日はもうどうしようもない。

約束の時間は決まっている。


たしか午前11時だったと思う。


持っていくものは、とっくに用意した。

と言っても、履歴書と筆記用具くらいだけど。


どんなに気が重くても。

いくら逃げ出したくても。


ベルトコンベアーに乗せられた荷物のように。

流れに身を任せる。


別に腹をくくっているわけじゃない。

当たって砕けろ的な意気込みもない。


遅刻しないように。

忘れ物のないように。

焦らないように。


ただそれだけだった。



朝はいつも通り。

居間で祖母とコーヒーを飲んで過ごした。


その後、祖父が起き出す前に自室に戻り。


目的地までこのくらいの時間で着くから・・。

何時何分には出発しなければ・・。

その何分前には着替えて・・。


などと逆算しながら。

余裕をもって、ひたすらに準備をこなしていく。


アルバイトの応募とは言え。

やはりスーツを着用して臨むことにした。


ここまでずっと。


家族には職探し中であることを隠してきたので。

できればこの日も気付かれないようにと思っていたが。


不運にも私が家を出るとき。

同居の祖父母は二人とも在宅していた。


スーツ姿を見られれば、当然訝しがられる。


私は二階の自室で着替えたあと。

音を立てないようそっと階段を降り。


玄関から出る直前に居間にいる祖母に声をかけた。


「ちょっと出かけてくる」


当然、革靴を履いていくことになるため。

前もって、スニーカーは部屋に引き上げておいた。


本人が出かけたあとに。

いつもの靴が置き去りでは怪しまれる。


玄関から出た私は、できる限りの俊敏さを発動。

家の脇に置かれた自転車に乗って出発した。


居間からは窓越しに玄関前が見える。


祖父は窓に背を向けて胡坐をかいているはずだし。

きっと振り返ったりはしないだろう。


そもそも私に興味がないのだから。


もしバレるとしたら祖母だが。


一応窓には常にレースのカーテンが引かれている。

万が一、そちらの方を向いたとしても。


私のスーツ姿がはっきり見えたかどうかは分からない。


ここまで来たらもうバレても仕方ないとは思う。

でも、やっぱり極力知られたくはない。


この面接に落ちた場合。

また次の仕事を探さなければならないし。


それを今か今かと待たれるのもプレッシャー。


今回だって。

何ヶ月も心の準備をして、やっと面接に辿り着いたのだ。


次の仕事を探すにしても、自分のペースでやりたい。


そんなことに思いを巡らせながら、自転車を漕ぐのだった。


到着


応募した会社の本社は、実際の職場とは別の場所にある。

そこで面接が行われる。


そう大きくもない地方都市の駅近く。

街のど真ん中にある会社。


こう書くと、大企業のように聞こえるけど。

実際は中小企業。


所詮、その程度の地方都市。


アルバイト情報誌を買っていたデパートからも近く。


下見をするまでもなく。

何度も通ったことのある場所。


その建物の前を一旦通過する。


来客用の駐輪場がなさそうだったので。

自転車は駅に置くことにしたのである。


そのとき住んでいたところは東京なんかと違って。

通勤や通学に電車を使う人はあまりいない。


駅の駐輪場も無料だった。


到着したのは、指定時刻の30分も早い時間。

目的地まではゆっくり歩いても5分くらい。


さすがに訪問するには早すぎるので。

15分ほど時間を潰してから向かうことにした。


駅の駐輪場で、着こなせていないスーツ姿で。

いかにも手持ち無沙汰。


通行人の目にはどう映るのだろう。

人目が気になる。


通行人自体いないけど。。。



余談だが。

今でも私はかなり早くに約束の場所に到着する。


フォーマルな約束でも、友人との待ち合わせでも。

時間に遅れるのは論外だし、ギリギリというのも嫌。


相手を待たせるより、自分が待つ方が断然マシ。


他人に迷惑をかけることを極端に避ける傾向がある。

過剰に心苦しく思ってしまうのだ。


例えばレジで支払いをしているとき。


後ろに並ぶ人を待たせないように。

財布に小銭があるのに、大きい札で払ってしまうとか。


とにかく自分の不手際や失敗。

そういうことで誰かの気分を害することを避けたい。


ただ、その裏返しとして。

他人にも同じくらい気を遣ってほしいとも思う。


なら、無職でいることで家族に迷惑をかけているのは?

そう糾弾されるかもしれないが。


やはり家族は別物で。


それが甘えなんだろうと思うし。

当時は甘えとは思いたくなかったけど。


甘えられる場所があることは。

ひきこもりにとって大切なことだと、今は思う。




長くなってきたので、ここで一旦分割。