ひきこもり脱出(その12)

2023年9月22日金曜日

アラフィフ ゲイ ひきこもり ひきこもり脱出 体験談

1994年 平成6年 21歳


人生初の面接が終わり。

担当の女性は、一週間を目処に連絡すると言った。


そのため私は少なくとも一週間は自由だと。

解放感で晴れやかな気分だった。



が、しかし。

意外にも採否の電話連絡はすぐに来た。


連絡


面接の翌日。

私は二階の自室にいた。


紆余曲折の末、居候している祖父母宅。


何時だったとか、何をしていたかとか。

細かいことは覚えていないけど。


ネットのない時代なので、やることと言ったら。


読書かゲームか、はたまたテレビでも見ていたか。

とにかくまったりしていたことは間違いない。


突然、階下から祖母の声がした。


「〇〇(私の名)、△△って会社から電話だよ!」


もちろんすぐにピンと来た。


だけど、こんなにも早くに連絡が来るとは・・。

やっぱりダメだったのか・・。


私は急いで階段を降り固定電話のある居間へ。


いつもの場所に胡坐をかいた祖父。


そちらを見ないようにするが。

見なくても怪訝そうな面持ちなのが伝わってくる。


そりゃそうだ。


普段、私宛に電話がかかってくることなどないのだから。

それも会社の名前で。


逆に言うと、祖父母には就活がバレていなかった。

その証左でもあるのだが。


しかし、そう。

これで私が職探しをしていたことがバレてしまう。


採用されていればまだしも。

不採用なら、面倒なことになる。


わずか数秒の間にそんなことを考えつつ。

私は黒電話の横に置かれた受話器を取った。


「もしもし、お電話代わりました〇〇です」


祖父も祖母も動きを止めて私を見ているのが分かる。


「・・・はい、そうですか。ありがとうございます」


一通り話し終わると。

私は静かに受話器を戻した。


採用だった。


安堵が心を満たしたことは言うまでもない。

だが、こんな思いも片隅に生じる。


ついに働くことになってしまった・・。


なんの特技も取り柄もない。

大学を中退し、そのあと2年半のブランク。


こんな自分が仕事などできるのだろうか。

今からでも辞退したらどうか。


この期に及んでも、弱い自分がいた。


何ヶ月もアルバイト情報誌とにらめっこをして。

やっとの思いで応募した仕事なのに。。



しかし、そんな葛藤は祖父に遮られた。

「誰からだ?」


祖母も答えを求める表情。


私は経緯と採用になった旨、説明した。


「あら~! そうなの! 全然知らなかったわ~!」

祖母は心底嬉しそうだった。


「おめでとう!」

対して祖父の言葉は明らかに社交辞令の色を帯びていた。


仕事が決まったことよりも。

ようやく邪魔な私が日中いなくなってくれると。


そっちの喜びの方が勝っていたのではあるまいか。

だとしても、別に構わないのだが。



そして、その日の夕方。

母が再婚相手とともに祖父母宅にやってきた。


祖母が連絡したのである。


結果的にこれで外堀は埋まった。

もう私は働くしかないのである。


でも、それでいい。


それがいいに決まっている。


顔合わせ


数日後、私は再び会社を訪れた。


仕事用の制服を渡すとのことで。

電話で来社してほしいと言われていたのである。


対応は面接の女性。

あとで知ったが、彼女は総務とのことだった。


私はちょっと不思議だった。

そんなに大きくもない会社でも総務はあるのかと。


まあ、50歳を過ぎた今でも。

会社の仕組みはよく知らないけど。



紙袋に入れた大きいサイズの制服を私に渡すと。

彼女はこう切り出した。


「〇〇さん(私の名)、これから少し時間ありますか?」


彼女が言うには、実際の職場である店舗へと赴き。

一緒に働く人たちと顔合わせさせたいらしい。


私は言われるまま、社用車へと乗り込む。


当然のことながら、彼女が運転する。

私はその助手席に乗ることになるわけだが。


それまで女性と車で二人きりになったことがないし。

それも男女二人なら、男が運転する時代。


なんだかデートのようで居心地が悪いうえに。

周りの人からどう見られるのかも気になる。


普通の男女ならまだしも。

私はゲイで、女性に興味がない。


デートを意識すること自体がおかしいわけで。

でも意識してしまう。


もっと厳密に言うなら。


相手に意識されているかもしれないと。

そう意識している私。


通行人からは。


デートで男が助手席に乗って。

女に運転させているなんて、と。


そう見られているとしたら、それも不本意。


ややこしい。


ただ、そこは大きくもない地方都市。

わちゃわちゃ考えている間に目的地に到着。


車だと10分くらいだった。



以前、下見をしている場所。

ショッピングモールの地下へ。


女性は私を引き連れて。

ゲームコーナーの奥のドアへと向かう。


ノックすると、「はい」と返事。


中は縦長の小部屋だった。

男性が一人、左側のデスクからこちらに向き直る。


奥の方は両サイドに棚があり。

段ボール箱がたくさん置かれている。


「金山さん(仮名)、寝てました?」と女性。


そう言われてみると。

男性の両目は充血しているようにも見える。


「そんなことないですよ!」

目をこすりながら男性。


「店長の金山さんです。

 こちら新しいアルバイトの〇〇(私の名)さんです」


店長と呼ばれた男性が立ち上がる。


年齢は30代後半くらいだろうか。


短い髪が天然パーマで。


それほど身長は高くない。

だけど、肉付きがよくガッシリしている。


ずんぐりむっくり。

その表現がピッタリな感じだった。


例えて言うのであれば。

子供のころ絵描き歌で描いた「かわいいコックさん」。















ただ一つ違うのは、店長は可愛くないということ。

どちらかというと、その反対。


そんなファーストインプレッションだったが。


実は彼こそが。

のちの私の初恋相手なのであった。